書籍情報
タイトル:具体と抽象
著者:細谷功
ジャンル:思考
オススメする読者層:考えることが好きな方・苦手な方、コミュニケーション能力を高めたい
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「具体と抽象」という概念について分かりやすくかつ丁寧に説明している本です。自分が読んだうち最も影響を受けた本の一冊でもあり、今も繰り返し読んでいます。この本を読むまで思考の方法は無限にあるものと思っていましたが、実は「具体と抽象」の切り口で捉えれば、かなり整理して捉えることができることを学びました。
要約
【抽象的なのは悪いこと?】
「抽象的でわかりにくい」「もっと具体的にわかりやすく話してほしい」
「具体と抽象」という言葉が日常会話で登場する場合の多くは、こういうフレーズではないでしょうか。
具体的な話はわかりやすく、良しとされることが多いです。確かに私も抽象論ばかり話す方は苦手ですし、話が終わっても具体的に何をすればいいのかわからないとストレスを感じます。
では「抽象」は悪いことで、「具体」が良いことなのでしょうか。実はそんなことはありません。著者の細谷功さんは本書の目的の1つとして「抽象の地位を取り戻す」ことを主張されています。
【具体と抽象とは】
抽象とは、多くの物事から共通の部分を抜き出し、一般的な概念として捉えることをいいます。例えるなら具体から枝葉をそぎ落とした幹に当たります。
以下の例では、左に行くほど抽象度が高く、矢印の先に行くほど具体性が高くなっています。
・猫で考える具体と抽象
生物→脊椎動物→哺乳類→猫→三毛猫→実家のタマ
・おにぎりで考える具体と抽象
食べ物→炭水化物→米料理→おにぎり→鮭おにぎり
具体と抽象の特徴で後述しますが、抽象は範囲が広く、具体は範囲が狭い、という特性があります。ですので、上の例では抽象(矢印の左側)に行くほど範囲が広く、具体(矢印の右側)に行くほど範囲が狭くなります。
そして、抽象(矢印の左側)の特性は、具体(矢印の右側)も当然に有しています。実家のタマは当然に生物でもあり、三毛猫でもあります。鮭おにぎりは米料理であり、炭水化物でもあります。
一方で逆は成り立ちません。生物の全てが実家のタマではありませんし、食べ物全てが鮭おにぎりでもありません。
【具体と抽象、それぞれの特徴】
具体と抽象には大まかに以下のような特徴があります。
是非上述の猫とおにぎりの例に当てはめて考えてみてください。
✔ 具体の特徴
イメージがつきやすい
適用範囲が狭い
すぐに行動可能
解釈の自由度が低い
✔ 抽象の特徴
イメージがつきくい
適用範囲が広い
行動への翻訳が必要
解釈の自由度が高い
具体と抽象はそれぞれに特徴があり、その特徴を意識したうえで使うことで、威力を発揮します。これらの特徴はより詳細な説明が本書にも記載されていますが、個人的には暗記しても良いぐらい重要なものだと考えています。
【具体的過ぎてわかりにくい?】
基本的には具体的なものの方がわかりやすい傾向にありますが、「具体的すぎてわかりにくい」ことも起こり得ます。例えば、
「寝具店」を
「枕やベッドやマットレスやタオルケット等が売っているお店」
と表現すると非常に(具体的すぎて)分かりにくいです。
とはいえ、「寝具店」で売っているモノの具体例は枕やベッドやマットレスやタオルケットですから、決して間違いではありません。
このことから言えるのは、わかりやすいかどうかは「抽象度が適切」かどうか、になります。
この「適切な抽象度」は相手の年齢、性別、職業等々により異なり、一般的には年齢や教養が高い方が抽象度を上げても伝わりやすい傾向にあるかと思います。幼児に「寝具店」と伝えても何のことか伝わらないことが多いと思いますが、「枕やベッドが売っているお店」と伝えたら大まかなイメージは伝わるでしょう。
【上流と下流】
「具体と抽象」と相性が良い概念として、仕事の「上流と下流」が挙げられます。
細谷さんによれば、およそ「仕事」というものは抽象から具体への変換作業であるといいます。
上流と下流の特徴は以下の通りです。
✔ 上流
抽象度高い
全体把握が必須
創造性重視
人海戦術は効果なし
質を重視
✔ 下流
具体性高い
部分への分割可能
効率性重視
人海戦術が効果あり
量を重視
仕事の流れの一例として、建物の建築を挙げてみます。まず上流工程で建物のコンセプトも含めて構想し、設計図を作り、その後建築工事に移ります。
別の例として漫画づくりを挙げると、上流工程でテーマの決定、ストーリー作りを行い、それを受けてネームの作成、背景等も含めた原稿作成といった流れになります。
いずれも上流工程の作業は抽象度が高く、基本的に少人数で行うものであり、効率よりも創造性が重視され、量よりも質が重視されます。
下流工程である工事や、原稿作成となると、分割して手分けが可能になるため、人海戦術が使えるようになり、創造性よりも効率的に作業することが求められます。
このように、全く違う仕事でも、「上流と下流」という視点で捉えると、共通点が多く浮かび上がってきます。
【具体と抽象を往復する】
最近ちらほら聞くことの増えたこのフレーズですが、思考するにあたってはこの視点が重要です。
日常の場面は具体的な事柄で溢れています。それを個別の出来事として捉えたままだと適用範囲が狭いため、学びとして非効率になります。そのため、一旦抽象化して範囲を広げるとより効率的に学びにつなげることができます。
一方で、抽象的な概念のままでは行動に繋げることができません。なのでまた具体的な行動に落とし込むことが必要になります。すなわち、「具体と抽象を往復する」ことが必要になります。
コメント
上述の通り「具体と抽象」はどちらが良い悪い、というものではありません。コミュニケーションでは適切な抽象度で伝えないとわかりにくくなりますし、学びの場面では具体のままでは非効率ですが、抽象概念では行動や結果に繋がらず、したがって現実が変わりません。
それゆえに具体と抽象はどちらも重要なのですが、一つ注意すべき点があります。 それは「抽象化」は難しいということです。 といいますのも、具体化は「例えば~」と具体例を挙げればよく、具体例を知らない場合でも最悪インターネットで検索すれば出てくることも多いです。
一方で抽象化の場合、自分で共通点や法則を見出す必要がある上に、目的に応じて抽象化の視点はいくらでもあります。細谷さんは抽象化の難しさの喩えとして、「抽象を理解できる人はマジックミラー越しに具体の世界を見下ろせる」旨の話をされています。 また、本書の中では「抽象化」なくして科学の発展はなく、「抽象化」なくして人類の発展もなかったと主張されています。
何事もわかりやすい方がストレスが少ないですから、どうしても具体的なものに流れていくのが人の常です。しかしながら、知性に立ち向かうには「抽象」から逃げてはならないと言えそうです。 抽象という概念はイメージがつきにくく、どうしても目を背けたくなりますが、具体と抽象を自在に行き来して効果的な思考ができるように、様々なジャンルの本に挑戦して思考の訓練をしていこうと思います。