はじめに:施策の良し悪しより「戦い方の比重」が成果を左右する

  • 商品やサービスは確立していて、評判も良いのに受注がまばらでなかなか売上が軌道に乗らない
  • 最初は順調に伸びていたが、顧客対応に追われて思うように成果が出なくなってきた
  • 営業を強化するべきか、広告やSNSに投資するべきか、コンテンツを作るべきか悩んでいる

こうした悩みは、個別施策の良し悪しというより、地上戦(個別対応) と 空中戦(不特定多数への発信)の比重設計が曖昧なことから生まれがちです。

本記事では「地上戦(個別対応)」と「空中戦(発信・広告)」を、事業の各フェーズのあるべき比重を整理します。読み終えると、①いま優先すべき比重 ②今月やる施策の最小セット ③両輪を循環させる設計、が決められます。

結論としては、地上戦で足元の着実な成果と、空中戦で市場での指名と優位性を作る。この両輪を、事業フェーズに応じて配分するのが合理的です。


地上戦とは:個別対応で信頼と成果を積み上げる

地上戦は、特定の顧客・案件・関係者に対して、個別に対応して価値を届け、関係性を築くスタイルです。

  • 1社ずつの提案営業、訪問、商談、導入支援
  • 直接会ってパートナー開拓・アライアンス
  • 展示会での個別フォロー、コミュニティでの関係構築
  • 受注率、継続率が高くなりやすく、顧客理解も深くなる

特徴:短期で売上になりやすい一方、時間や人的リソースの制約を受けやすくなる弱点があります。


空中戦とは:不特定多数へ発信して選ばれる状態を作る

空中戦は、コンテンツ・広告・SNS・PR・イベントなどで広く市場へ働きかけるスタイルです。

  • SEO/ブログ/ホワイトペーパー
  • SNS/動画/ポッドキャスト
  • ウェビナー/カンファレンス登壇
  • PR/メディア露出
  • 広告(検索・SNS・ディスプレイ)やリターゲティング
  • メールマーケ・コミュニティ運営

特徴:成果が出るまで時間がかかる一方、うまく当たればブランディングをはじめとした“資産”になり得ます(ただし運用設計と継続が前提です)。これにより指名・単価・採用・提携などへ波及します。


地上戦と空中戦の性質の違い

両者の性質をまとめると以下のようになります。

観点地上戦空中戦
価値提供の単位1社・1人に深く多数に広く
立ち上がり早い(短期)遅い(中長期)
スケールしづらい(稼働依存)しやすい(再利用・資産化)
単価・交渉力提案力次第指名・比較優位で上がりやすい
ボトルネック人・時間・移動・属人化継続・品質・運用設計
向いている成果今月の売上/導入半年後の案件質/ブランド


マーケティング用語で言うところの「プッシュ戦略」と「プル戦略」

マーケティング用語では一般にこう整理されます。

  • プッシュ(Push):こちらから届けに行く(アウトバウンド)
    • 例:営業、提案、パートナー開拓、展示会フォロー、DM
  • プル(Pull):相手から来てもらう(インバウンド)
    • 例:SEO、SNS、広告、PR、ウェビナー、指名検索

地上戦=プッシュ、空中戦=プル、に概ね対応します。ただし厳密には混ざることもあります(例:広告は空中戦だがプッシュ的、コミュニティはプルにもプッシュにもなる)。重要なのは言葉の分類より、短期の売上か/中長期の優位性かで配分を決めることです。


フェーズ(立ち上げ期・伸長期・成熟期)別の「適正配分」

地上戦から徐々に空中戦の割合を高めていくのがセオリーです。何者でもない状態から空中戦で発信や講演活動をしても、なかなか認知を集められません。まずは丁寧な関係づくりと商品・サービス開発のための顧客の直接の声を自分で聞くことが大切です。なお、最初から空中戦で大成功してしまうケースもあり、これはこれで注意すべき点があるため後述します。

立ち上げ期:地上戦 80%/空中戦 20%

まずは堅実な事業基盤を作るために、基礎としての足元を固める段階です。地上戦での関係づくりや個別受注しながら、空中戦は「将来の種まき」に限定します(例:週1本の発信、月1回のウェビナーなど、最小単位で継続)。

地上戦に特化しても良いのですが、ほんの少しでもやっておかないと、いざ本格的に始めようとしたときに何からすれば良いのかわからなくなりがちで、その頃には地上戦が軌道に乗っているため、なおさら始めにくくなります。

まず着手できることの例:

  • 地上戦:週◯件の商談、提案テンプレ整備、導入チェックリスト化
  • 空中戦:週1本の発信(事例/失敗談/比較表のどれか固定)、月1回の小規模ウェビナー(録画再利用)

伸長期:地上戦 60%/空中戦 40%

事業が軌道に乗ったら、空中戦の割合を少しずつ増やし「入口の増強」と「案件の質」を上げる局面に少しずつ移っていきます。この段階で空中戦に投資できないと、獲得単価や稼働負荷が積み上がり、非効率な事業運営となりやすく利益率も下がりやすいです。空中戦を継続することで投資が回り始め、指名や比較優位が効いてきます。

一方で、ここで地上戦がおろそかになってしまうことがあり得ます。するとサービスや顧客対応の品質が落ちて足元が崩れてしまいかねません。地上戦で手に入れたノウハウにより標準化し、高い品質を少ない労力で提供できるよう工夫が必要になります。

まず着手できることの例:

  • 地上戦:勝ちパターンの標準化(提案書の型、FAQ、導入手順)
  • 空中戦:勝ちコンテンツの型をシリーズ化(検索意図別に3本セットなど)

成熟期:地上戦 30%/空中戦 70%

この段階まで来ると地上戦は深耕(既存顧客の価値の最大化)へ寄せていくことが重要です。

空中戦も継続してうまく行っていれば、市場内ポジションが確立して、採用や提携など、集客以外にも効いてきます。一言でいえばブランディングと整合しているかが重要になるため、いたずらな情報発信よりもブランドイメージに即した戦い方を続けることが重要です。

まず着手できることの例:

  • 地上戦:月〇件の商談(完全にゼロにしない)
  • 空中戦:パターン化して定期更新、仕組み化・自動化(例:生成AI活用など)によりネタ切れを防ぎ継続

理想は循環させること

地上戦と空中戦は、相互に循環させることで効果が最大限に発揮されます。地上戦で直接会って話し、一件一件の仕事を丁寧にこなす中で得られる実務上の気づきや失敗、顧客の生の反応は、そのまま空中戦のコンテンツの種になります。

一方、ブログや講演、SNSといった空中戦では、そのコンテンツ制作の過程や裏話、気づいたことなど実務上の勘所を、直接会って話す地上戦でこそ深く共有でき、より刺さるようなやり取りができます。この循環をうまく実現するのが理想です。



一本足でも回る?:ただし“補助輪”は必要

誰しも得手不得手というものがあります。対面でゆっくり話すのは得意だが、プレゼンが苦手。ブログを書くのは得意だけど、人と話すのが苦手など。理想は循環させることと上述しましたが、得意な方だけの一本足打法は通じるのでしょうか?

地上戦は人の稼働に依存して属人化が進み、事業規模を一気に拡大しづらく、効率が悪いという弱点があります。人のキャパシティを超える量を引き受けてしまうと、クレームのもとになりかねません。

逆に空中戦は、立ち上がりが遅い点や、顧客との距離が遠く顧客理解がおろそかになりやすい点、SNSや動画配信サイトなどのアルゴリズム変更で大きな影響を受けやすい点が弱点です。

いずれも放置すると、事業にとって大きな痛手になり得る弱点です。なので結論としては、一本足でも可能ではあるものの、例えば

  • 苦手な方も補助輪として回す
  • 「苦手だけどこれなら何とか」という領域を作る
  • 外注を活用してやってもらう(ただし社内にノウハウが残らなくなり、成果責任も曖昧になるため丸投げは推奨しません)

のように、もう一方にも何かしらの形で挑戦することが有効です。

苦手は嫌いにつながりやすく、そのまま「やらない」選択に直結しがちなため、ここを踏ん張れるかは一つのポイントなのではないかと思います。

いずれか一方がボトルネックとなってしまっている場合は、もう一方に注力すると効果が出やすい時期といえます。
例えば以下のようなケースです。

  • 供給制約(納品キャパ)が強い → 空中戦を伸ばし過ぎると破綻しやすい(先に標準化)
  • 受注単価が低く商談効率が悪い → 地上戦だけだと伸びにくい(空中戦で母数・指名を作る)
  • 属人営業が強い → まず地上戦の勝ち筋を型化し、空中戦へ移植

なお、特に中小企業の場合は誰かに任せるにしても、その人が辞めてしまった時点で会社としてその活動ができなくならないよう、社長や経営層が主体的に方針と学習に関与することが重要です。



先にどちらかで大きく成功してしまった場合の留意点

前述の通り地上戦と空中戦はそれぞれメリットとデメリットがあり、特性が全く違うといえます。

この観点で注意すべき点があり、先にどちらかの戦い方で、つまり地上戦オンリー又は空中戦オンリーで大きく成功してしまった場合のケースです。

例えば地上戦で大成功すると、このような考えになりがちです。

「自分は一対一で丁寧にやり取りをするのが得意だ。ブログを書いたり大勢へ発信するのは苦手だから、今まで通りのやり方でコツコツいこう」

逆に空中戦で大成功してしまうと、このような考えになりがちです。

「自分は情報発信が得意で、案件の引き合いも増えて条件もどんどん良くなっている。直接一人と会うなんて非効率だから空中戦をどんどん強めていこう」

ただ、どちらか一方に寄せすぎると、成長の天井が早く見えてしまいます。地上戦だけでは時間がボトルネックになり、単価や案件数の伸びに限界が出ます。一方で空中戦だけでは、人の直接の声に触れる機会がなくなり、発信の品質が保てなくなりがちです。したがって理想は、空中戦でブランディングしっかりしてファンを集め、地上戦で地に足のついた状況把握や関係構築をすることです。両輪で回す設計が、長期的に最も強い戦い方です。

まとめ:地上戦で安定、空中戦で優位性。配分をフェーズで変える

コンパクトにまとめると以下のようになります。

  • 地上戦は短期売上と顧客理解を作る
  • 空中戦は指名・比較優位・スケールを作る
  • 重要なのは施策選びより「比重」と「循環」
  • 比率は目安。需要/供給のボトルネックで調整する

事業が軌道に乗らない、軌道には乗ったが思うように拡大しない場合には参考にしてみてください。