仕事は速くミスも少なく資料もわかりやすいと評判で、上司や関係者と話し合った通りに仕事を終えている。にも関わらずいまいち成果に繋がっている気がせず、評価も上がらない...そんな場面に遭遇したことはありませんか?

この本は仮説思考と同じく内田和成氏の著作で、本当に解くべき問題を見極める論点思考について書かれています。問題解決といえば、どのように問題を解決するかに焦点を当てがちですが、その前にどの問題を解くかを考える方が遥かに重要であり、この本ではその方法論を示しています。

内田和成 論点思考

この記事の要点

  • 解くべき問題を間違えていると、その後をどんなに正しく実行しても意味がない
  • 論点思考によれば、解くべき問題に集中して成果を最大化し、時間とエネルギーを節約できる
  • 論点思考のステップ:論点候補を拾い出す→論点を絞る→全体像で確認する→論点を確定する
  • 論点思考を鍛えるには、問題意識と異なる視点・視野・視座を持ち、仮説思考を使いこなすことが必要

論点思考の効力

ビジネスの世界では、日々発生する無数の課題に対し、限られた時間とリソースの中で対処しなければなりません。ここで、そもそも解くべき問題(問い)そのものが間違っていたら、どんなに優れた分析能力や最新のツールを使って「正しく」問題を解いたとしても、意味のある結果は生まれないことになります。

論点思考は、この「解くべき真の問い」、すなわち論点を正しく設定し、実行していくプロセス全体を指します。本書は、問題解決のプロセスにおいて、この論点設定が最も上流の工程であり、きわめて重要であると断言しています。

成果を最大化し、時間とエネルギーを節約する

論点思考の最大の効力は、短期間で成果を出すことを可能にする点にあります。企業は数多くの問題を抱えていますが、それらすべてを解決しようとすると、時間もエネルギーも足りず、結果としてすべてが中途半端に終わってしまいます。

優秀なコンサルタントは、この状況で「筋の良い論点」を一つか二つに絞り込むことを重視します。筋の悪い、あるいは解く確率の低い問題に時間をかけることを回避し、「捨てる」という判断を伴うことで、時間とエネルギーの大きな浪費を防ぐことができるのです。

ピーター・ドラッカーは、「経営における最も重大な過ちは、間違った問いに答えることだ」と述べています。論点思考は、この最上流の過ちを犯さないための知的規律であり、成果をあげるための戦略的思考の出発点となるのです。

現象(事実)と論点(問い)の明確な区別

論点思考を実践するためには、「現象や観察事実」と「論点」を明確に区別することが大前提となります。例えば、「会社に泥棒が入った」という事実は現象であり、論点ではありません。この現象から、「防犯体制に不備があるのか」「損害リスクを最小化すべきか」など、複数の論点候補を導き出すことができます。

論点とは、行動を決定するための問いであり、何をもって論点とするかによって、その後の取るべき「打ち手」が根本的に変わります。現象に引きずられ、「売上が下がった」という現象をそのまま論点としてしまうと、コスト削減のような対症療法で終わり、真の成果には繋がりません。


論点思考のステップ

論点思考は、以下の基本的なステップから構成されます。ただし、現実の問題解決では、これらのステップは一方通行ではなく、常に行きつ戻りつしながら進められます。

ステップ1:論点候補を拾い出す

人や企業が抱える問題の候補は無数にあります。この段階では、議論や情報収集を通じて、解決すべき論点候補を幅広くリストアップします。最も重要なのは、現象や観察事実に惑わされないこと。また、大論点(最上位の概念、成し遂げるべき最終ゴール)を意識し、自分が取り組むべき問題がその中でどのような位置づけにあるのかを把握することが大切です。

ステップ2:当たり・筋の善し悪しで絞り込む

拾い出された論点候補から、実際に取り組むべき論点を絞り込む工程です。闇雲にすべてを調べる「網羅思考」では、時間とエネルギーを浪費してしまいます。

当たりをつける(仮説を持つ)
まず経験と勘に基づき、論点の「仮の答え」を立てることが重要です。例えば、売上不振の原因を探る際、「リピートされていないのか?」「トライアルが少ないのか?」など、白黒つけやすそうなところからアプローチします。「なぜ」を五回繰り返すことで、現象の背後にある真の原因を芋づる式に掘り下げることができます。

筋の善し悪しを見極める
選ばれた論点が解く価値があるかどうかを判断します。筋の良い論点とは、以下の三つの基準をクリアしたものです。

  1. 解けるか(解決できる確率)
    解ける確率の低い論点、難問は捨てるべきです。ビジネスでは成果を出すことが大前提です。
  2. 実行可能(容易)か
    ヒト、モノ、カネといった限られた経営資源で容易に実行できるかどうかを判断基準とします。
  3. 解決した場合に効果が大きいか
    得られる利益や組織へのインパクトが十分にあるか。

以前のニューヨーク市長であるジュリアーニが、凶悪犯ではなく「路上での強請の問題」という小さくても解決可能で、市民の体感治安をすぐに改善できる論点から着手した例が、筋の良い論点の典型です。

論点の全体像を確認する

論点の全体像を確認するプロセスは、絞り込まれた論点を階層構造で整理し、定義することを指します。大論点、中論点、小論点という上・下位関係を用いて論点を構造化する行為であり、この構造全体は「イシュー・ツリー」と呼ばれます。

大論点とは、自分の仕事で成し遂げるべき最終的なゴールを規定する最上位の論点であり、戦略思考の出発点となります。この構造化を通じて、いま取り組むべき個別の論点が、上位の大論点全体の中でどのような役割を果たしているのかを確認します。

目先の具体的な課題に集中するだけでなく、上位概念の論点を考えることで、当初は見えていなかった真の論点や、並列する代替案が明確になります。構造化は、闇雲に多くの情報を集めることを防ぎ、答えを導き出すために掘るべき筋道を明確にする上で極めて重要です。

論点を確定する

論点を確定するプロセスは、絞り込んだ論点に対して、最終的な実行の判断と関係者間の認識の一致を図る段階です。論点思考では、依頼主が抱える問題意識や真意が必ずしも明確に言語化されていないため、その真の論点を探ることが確定の肝となります。

そのために、「論点の仮説」を相手にぶつけて反応を見る「プロービング」(探針)という手法を用います。これは、質問を通じて相手の考えを明確に引き出し、本質的な論点を特定するための対話的技術です。

また、確定した論点は上述の「筋が良い」、つまり「解ける確率が高い」「経営資源で容易に実行できる」「解決した場合に効果が大きい」という三つの基準を満たしている必要があります。

論点思考のプロセスは、論点設定と確定を常に行きつ戻りつしながら進めるのが現実の姿であり、検証や対話を通じて論点が間違いないか確かめ直す姿勢が不可欠です。真の論点を設定できれば、問題解決の九割方は終わっていると言えます。


論点思考を鍛えるには

論点思考力は、日々の仕事の中で意識的な訓練と経験の積み重ねによって培われます。そのために実践すべきこととして以下が紹介されています。

問題意識を常に持つこと

論点思考を鍛えるための最も重要な第一歩は、常に「本当の問題はなにか」と考える姿勢、すなわち問題意識を持つことです。

若手であっても、上司から与えられた論点や課題をそのまま受け入れるのではなく、「この大論点は正しいか?」と常に疑い、問い直す習慣が必要です。論点設定を意識せず、分析や情報収集という「作業」に邁進してしまうと、「作業屋」で終わってしまいます。

視点、視座、視野の三要素を訓練する

視座(二つ上のポジションで考える)
自分の職位よりも二つ上の立場の人間になったつもりで考える訓練です。これにより、自分の抱える問題が組織全体の中で持つ大局的な意味が明確になります。

視野(広く、遠くから見る)
普段見ていない方向(他業界の事例、アナロジー)や、長期視点で物事を捉える訓練です。例えば、通信業界の規制緩和の影響を予測するために、過去に同じような変化が起きた航空業界の事例を参照することで、新たな論点が見えてきます。

視点(切り口を変える)
課題を異なる切り口(コスト、品質、チャネル)から捉え直します。特に、逆張り(川下から考える)の思考は、既存のパラダイムにとらわれない新しい論点やアイデアを生み出します。

「引き出し」を増やし、仮説を磨く

論点に対する「当たり」の精度を高めるためには、経験によって培われた知識のデータベース、すなわち「引き出し」を頭の中に持つことが必要です。情報収集や整理に時間をかけすぎるのではなく、問題意識(興味)のアンテナを高く持ち、心に引っかかった事象を過去の引き出しの知識と結びつけることが重要です。

また、自分の主張の論点を明確にすると同時に、必ず反対者の意見を想像し、代替となる論点を同時に考える訓練をすべきです。これにより、自分の論点の妥当性を深く検証できます。

上司が部下を育成する際は、ストレートに答えを与えるのではなく、白黒がはっきりする複数の論点や、ややオープンな論点を与えることで、部下は自ら事実を調べ、論理的な筋道を立てて真の答えにたどり着く思考プロセスを身につけられます。

論点思考は、ビジネスパーソンが成果を上げ、組織内でリーダーシップを発揮するために不可欠なスキルです。それは、闇雲に目の前の作業に没頭するのではなく、限られた時間をどこに投下すべきかを決定する、極めて根源的な能力であると言えます。

感想

論点思考は仮説思考とセットで実践すべきであり、一方向で進むのではなく上述の4ステップを試行錯誤しながら進むことになります。

現実で問題解決に向き合っていると、解いても大して意味のない疑問に向き合ってしまったり、最初は重要な論点について話し合っていた関わらず、議論している最中で論点からずれていく場面に多く出くわします。本当に解くべき論点は何なのかを意識し、実践する論点思考を身に付ければ、成果を出しやすくなります。

特にプロジェクトの前半では、論点思考と仮説思考とフル活用して解くべき問題を特定し、後半に向けて詳細に具体化していくのが望ましいといえます。よく言われる「いきなりパワーポイント作り始めてはならない」というのも同じで、まずは上流工程でしっかり領域を確定させることが、手戻りなく重要な成果をあげるためには不可欠です。

本書の中でもありますが、論点思考は経験と知識の積み重ねで磨かれていくものです。経験がない中で論点思考を重視しすぎると、手が止まって行動力が阻害されてしまいかねません。

内田和成氏は著書で、「泥臭く、結果的には無駄だった作業を何度も繰り返すことを経験していない者に、仮説思考などできるものだろうか」という趣旨のことを語っています。そういう意味で本書も、経験を重ねて読み返すほどに得られるものが多くなっていく内容に感じます。

スピードや正確性には自信があるのに、なぜか成果に繋がらないと悩んでいる方はぜひ手に取ってみてください。

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