※致命的なネタバレには配慮していますが、内容に触れていますので未読の方はご注意ください。

森博嗣氏のデビュー作で、講談社のメフィスト賞受賞作です。氏は名古屋大学で助教授を歴任した工学博士で、その知識を存分が織り込まれており、理系ミステリの先駆けという声もあるようです。

もともとはXで「四季 春」という作品を教えてもらい購入したのですが、それがスピンオフ的な前日譚と知り、Kindleに積まれていた「すべてがFになる」を読み始めました。

あらすじは、大学助教授の犀川創平(さいかわ そうへい)と彼の研究室の学生西之園萌絵(にしのその もえ)が、とある孤島で天才プログラマー真賀田四季(まがた しき)に会いに行くものの、殺人事件に巻き込まれ…というものです。

同作は「さいかわ」と「もえ」の頭文字を取ってS&Mシリーズと呼ばれています。

犀川、西之園、真賀田の3人の天才、特に真賀田四季の常軌を逸した天才ぶりが本作の見どころと言えるかと思います。個人的には犀川、西之園両者の掛け合いと、犀川の余裕のない時にでてくるジョークが好きです。

ミステリー慣れしてても、読みながらこの真相に辿り付くのはちょっと無理そうです。自分は手品を楽しみながら見るタイプのため、このストーリー展開も満足でした。

以下は印象に残った箇所をご紹介します。

意見を言った端から、すぐ忘れる。こんな内容のない意見を、真面目な顔をして、意味のありそうな言葉で包装して発言できるようになったのは最近である。

このくだりは最終的に「目的に付きさえそれば、それでいい」と続きますが、目的を念頭に置いておくと、無理に意味のある発言をしようとして頭が迷子にならずに済みそうですね。スマートな方はこんなことは日常的にできるのでしょうが、とはいえ個人的には何度か迷子になっておくことも色々と意味はありそうな気もしています。

「ノープロブレム」萌絵は彼女に微笑む。しかし、本当はプロブレムだらけだった。

現実でよくあるやつですね。

「想い出は全部記憶しているけどね、記憶は全部は思い出せないんだ」

楽しむ手段を増やすために記憶を増やしている節があるので、思い出作りも必要だなと思い始めています。

実際の場所、そして距離、といったごく身近で当たり前の概念が、ここでは、非常に曖昧なのである。

色々なところでお仕事させて頂くので、その場その場でどういう概念がどういう扱われ方をしているかは考えられるようにしておかないと役割を果たしにくくなるなと感じるところです。

それは、君の意見。僕は意見をおしつける気はないよ

押し付けないのはとてもいいですね。みんなちがってみんないい。

「いえ、真実に気がつけば、誰でも自信家になれます」

犀川が本心を言う。

「自信なんて、小心者のポケットみたいなものです」

「ポケットを幾つもお持ちのようね」

「ええ」

犀川は頷いた。

真実を知ってポケットを色々用意しておくのも、自信を保つためには必要なのかもしれません。

予想外のご返答ができなくて、恐縮です

キャラといい全く読めない事件の真相といい、読み応え抜群ですので興味のある方はぜひ。最後までお付き合い頂きありがとうございます。