二つの大きな町に挟まれたオアシスに、一人の老人が座っていた。 通りかかった男が老人に訪ねた。
「これから隣の町に行くのですが、この先の町はどんな町ですか?」
老人はこれに答えずに聞いた。
「今までいた町は、お前にとってどんな町だった?」
男はしかめっ面をして言う。
「たちの悪い人間が多くて、汚い町ですよ。だから、隣の町に行ってみようと思ったんです。」
老人はこう答えた。

「お前がそう思っているなら、隣の町も、たちの悪い人間が多い、汚い町だろうよ」

しばらくすると、さっきの男が来たのと同じ町から、別の男がやってきた。その男はさっきの男と同じように老人に訪ねた。
「これから隣の町に行くのですが、この先の町はどんな町ですか?」
老人はこれに答えずに聞いた。
「今までいた町は、お前にとってどんな町だった?」
男はにこやかに答えた。
「親切な人が多くて、きれいな街です。」
老人はこれを聞いてこう言った。

「なるほど、お前がそう思うなら、隣の町も親切な人が多い、きれいな町だよ」

引用元:座右の寓話 戸田智弘 出版社 ディスカヴァー・トゥエンティワン
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老人は同じ町を目指す別の若者に、それぞれ真逆の意見を述べます。老人は一方の若者には嘘をついたのでしょうか。

偏に町といっても、色々な側面があります。人口の多寡、男女比率、産業の特徴、天候の特性等々。当然、何に目を向けるかによって良い悪いは変わってきます。

どこに注意を向けるかは、見る人の側である程度コントロールすることができます。物事が完璧に良いことばかりということはほとんどなく、極端な話粗探しをしてしまえば大概のことから悪い面を見つけられるでしょう。逆も又然りで、老人は後から来た若者を、物事の良い面に着目する人だと考えたのかもしれません。

悪いことをに目をつけることが癖になっている人は、環境が変わっても悪いことを見つけ、良いことを見つけることが上手な人は、別の環境でも良いところを見つけるものなのかもしれません。