書籍概要
本書は山口周さんと長濱ねるさんが出演している「NTT Group BIBLIOTHECA 」を書籍としてまとめたものです。番組内で取り上げたキーワードと関連する書籍を紹介しており、本書はそこからピックアップされた51のキーワードを軸に構成されています。キーワードは章立てごとにグルーピングされていて、ビジネス、キャリア、感性、人間関係など、多岐にわたります。
この本の魅力は、以下の3点に集約されます。
✔ 異なるふたりの視点
経歴の全く異なるお二人の会話を通じて、一つのキーワードに対して多角的な視点が得られる
✔ 幅広いテーマ
ビジネスやキャリアだけでなく、感性や人間関係など、様々なテーマが扱われている
✔ 読みやすい構成
1つのキーワードは10ページ以内で完結するため、興味のある部分だけを拾い読みできる
以下では気になったキーワードを3つ取り上げてご紹介します。
アテンション
アテンションとは注目や着目といった意味です。SNSなどで情報が錯綜する現代では、アテンションを集めること自体が非常に難しくなってきています。
昨今では、アテンションを集めることが売上に直結する側面があります。しかしながら、アテンションの獲得競争は非常に激しく、個々人が自由にアテンションを振り向けられる時間は限られていることもあって全体の量は増やせません。
アテンションを集める最も基本的な行動はクリエイティビティであり、美しいもの、面白いものなどを作るためにはクリエイティビティが不可欠です。しかし、そのためには相当量の勉強や訓練が必要になります。現代ではこれを嫌がって手っ取り早くアテンションを集めようと、ルール違反や過激な内容に走ってしまう傾向が散見されますが、このような方法で集められるのは、持続性のない瞬時のアテンションのみです。長い間注目してもらうには、本当にいいものを作るしかありません。
アテンションを集めるためにはいくつかのトリガーがあります。本書ではリーダーとみなされる人がやっていることを調べたところ「一番最初に質問をしていた」という研究が紹介されています。何か意見があるか、質問があるかと問われたときに、リーダーとみなされる人は真っ先に手を挙げる点で共通していたといいます。
また、専門家や偉い人からお墨付きをもらうと注目を得られるという「専門家トリガー」や、謎を提示することでアテンションを集める「謎トリガー」も紹介されています。
ティッピングポイント
一定の条件を超え、物事が急激に変化する転換点のことをティッピングポイントといいます。少数者の原則として、現代美術の世界で大成功を収めたバスキアというアーティストのエピソードが紹介されています。彼は別のアーティストと匿名のユニットを組んで、存在を公にせずに活動していましたが、あることをきっかけにメディアに正体を喋ってしまいます。
そこから先、彼は個人でアーティストの活動をすることになりますが、とある画廊やアトリエに頻繁に出入りして、当時のニューヨークで力のあったギャラリーに通い、数は少ないながら影響力のある人たちとコネクションを作っていきます。そこから様々な有名ギャラリーのオーナーへの紹介などにつながり、一気に駆け上がっていくことになります。このように、ごく少数の影響力を持った人物からスタートしていくということが、少数者の原則のポイントです。
ティッピングポイントを超えるかどうかには偶然や運も大きく絡みますが、超えやすくなる条件として傾向があり、それは然るべき時に然るべき場所にいることです。例えば、コンピューター業界では、1990年代のシリコンバレーにいると、大きな成功を得られた人が多数存在しています。また、印象派の時代のアーティストは、世紀末のパリにいることが重要でした。このように、特定の時代に特定の場所にいることで大きな波に乗りやすくなります。
弱いつながり
人間関係には強いつながりと弱いつながりがあります。家族や親友、上司と部下といった関係性は一般的に強いつながりに分類されます。弱いつながりは、友達の友達や何かの機会に知り合った人などが例として挙げられています。
弱いつながりの概念の提唱者であるグラノヴェッターは、判断基準として、1. 一緒に過ごした時間の量、2. 情緒的な強度、3. 親密さ、4. 助け合いをしている程度を挙げています。
職探しや転職においては、きっかけを与えてくれる人は、実は強いつながりよりも弱いつながりの方が多いといいます。つながりの強い人は、利害が一緒になってしまっていることが多いことが一番の理由です。
例えば、転職を考えているのであれば、つながりの強い同僚や上司に相談をしたとしても、「この人がいなくなったら困る」という状況ができてしまっている場合には、相談された側からすれば転職を止める動機が強くなりがちです。一方で弱いつながりであれば、利害関係も比較的強くないことから、よりフラットな視点から相談に乗ってもらえる可能性が高まります。
SNSなどをはじめとしたインターネット上の機能が活用できる昨今では、弱いつながりを作りやすくなっていると言えます。ただし、SNSなどは自分と似た考えの人をフォローしやすいことから、知らぬ間に同じ価値観を持っている人の集団に属してしまいがちです。そこで上がってくる声や意見は、社会全体の価値観を代表していることは全くなく、自分の声が跳ね返ってくるだけのエコーチェンバーの状態になってしまいかねず、弱いつながりを作る際にはこの点に留意が必要です。
感想
ビジネスや人間関係などの幅広い観点から、現代で重要度が高まっているキーワードを幅広く押さえることができます。どちらかというと広く浅くの傾向ですが、各キーワードごとに1冊ずつ参考書籍が紹介されているため、興味を持ったキーワードはすぐに掘り下げるようなこともできます。
変化が激しく新しい概念の重要度が増していることもさることながら、幅広い分野にアンテナを張っておくことも同様に重要になってきているように思います。その意味でも様々な分野について触れられる本書はおすすめの一冊です。興味のある方はぜひ手に取ってみてください。

