所得税を計算する際には、所得から差し引く「所得控除」と、計算された税額から差し引く「税額控除」があります。

所得控除は、税率をかける前の課税所得を小さくする制度です。一方、税額控除は、課税所得に税率をかけて算出した所得税額から一定額を直接差し引く制度です。

そのため、税額控除は所得控除に比べて税負担への影響を把握しやすい制度です。ただし、控除できる金額には上限がある場合があり、所得税額から控除しきれない金額の取り扱いも制度ごとに異なります。

本記事では、個人の所得税における税額控除について、所得控除との違い、代表的な制度、適用時の注意点について解説します。

この記事の要点

  • 税額控除は、税率をかけて計算した所得税額から直接差し引く制度です。
  • 所得控除は「課税所得を小さくする」もの、税額控除は「算出された税額を直接減らす」ものです。
  • 税額控除は、所得税額から控除できる範囲では税負担の減少に直接反映されます。ただし、控除上限や控除しきれない場合の扱いは制度ごとに異なります。
  • 代表的な税額控除には、住宅ローン控除、配当控除、外国税額控除、寄附金に関する特別控除などがあります。
  • 税額控除を受けるためには、適用要件を満たしたうえで、確定申告や年末調整などの手続きが必要です。

税額控除とは

税率をかけて計算した後の所得税額から差し引く制度

税額控除とは、課税所得に税率をかけて算出した所得税額から、一定の金額を直接差し引くことができる制度です。国税庁も、税額控除を「課税所得金額に税率を乗じて算出した所得税額から、一定の金額を控除するもの」と説明しています。

所得税の計算は、大まかに次のような流れで行われます。

  1. 収入から必要経費、または給与所得控除などを差し引いて「所得」を求める
  2. 所得から「所得控除の合計額」を差し引いて「課税所得」を求める
  3. 課税所得に所得税率をかけて「所得税額」を計算する
  4. 算出された所得税額から「税額控除」を差し引く
  5. 復興特別所得税なども含めて、最終的な納付税額または還付額を計算する

税額控除が関わるのは、主にステップ4の部分です。税率をかけた後の税額そのものから差し引くため、所得控除よりも効果をイメージしやすいのが特徴です。

税額控除の効果をイメージする

たとえば、課税所得をもとに計算した所得税額が30万円だったとします。このとき、住宅ローン控除などの税額控除が20万円あれば、所得税額は原則として10万円になります。

一方、所得税額が10万円しかない場合に、20万円の税額控除があっても、必ず20万円全額をその年の所得税から差し引けるとは限りません。住宅ローン控除のように住民税から一部控除できる場合や、外国税額控除のように一定の繰越計算がある場合もありますが、制度によって取り扱いは異なります。

つまり、税額控除は「税額を直接減らす制度」ですが、「控除額が常に全額そのまま戻ってくる制度」ではない点に注意が必要です。

所得控除との違い

所得控除と税額控除の最大の違いは、「どのタイミングで差し引くか」です。

所得控除 税額控除
差し引くタイミング 税率をかける前 税率をかけた後
差し引く対象 所得、または課税所得 算出された所得税額
効果の大きさ 適用税率によって変わる 所得税額から控除できる範囲では控除額が直接反映される
基礎控除、医療費控除、扶養控除など 住宅ローン控除、配当控除、外国税額控除など

所得控除は「課税所得」を小さくするもの

所得控除は、所得から一定額を差し引くことで課税所得を小さくし、その結果として所得税額を下げる制度です。国税庁は、所得控除について、各種所得の金額の合計額から各種所得控除の額の合計額を差し引き、その残りの金額を基礎として所得税額を計算すると説明しています。

そのため、所得控除による税負担の軽減額は、適用される所得税率によって変わります。たとえば同じ10万円の所得控除でも、所得税率が10%の人であれば所得税の軽減額はおおむね1万円、所得税率が33%の人であればおおむね3万3,000円です。

なお、所得税の税率は、分離課税などを除き、5%から45%までの7段階に区分されています。30%という所得税率の区分はないため、税率の例を出す場合は、10%と20%、10%と33%など、実際の税率区分に沿って説明するのが正確です。

税額控除は「税額」を直接減らすもの

税額控除は、算出された所得税額から直接差し引く制度です。たとえば、住宅ローン控除が20万円で、所得税額が20万円以上ある場合には、所得税額が20万円減少します。

ただし、税額控除にも控除限度額がある場合があります。配当控除では、配当控除の金額は算出税額を限度とするとされています。そのため、税額控除の説明では「所得税額から控除できる範囲では、税額を直接減らす」と理解すると正確です。

主な税額控除の例

住宅ローン控除

住宅ローン控除は、正式には「住宅借入金等特別控除」といいます。一定の要件を満たす住宅を取得・新築・増改築等した際に、住宅ローン等を利用している場合に受けられる税額控除です。

控除額は、住宅ローン等の年末残高などを基に計算されます。近年の住宅ローン減税では、原則として年末ローン残高の0.7%を所得税から控除し、所得税から控除しきれない場合には翌年の住民税から一部控除される仕組みがあります。

ただし、控除率、控除期間、借入限度額、対象となる住宅の種類は、入居時期や住宅の省エネ性能、新築・中古・増改築の区分などによって異なります。2026年時点では、令和8年度税制改正により、令和8年1月1日から令和12年12月31日までに入居した場合についても、住宅ローン減税の延長・拡充が示されています。

所得要件もあります。令和4年以降の住宅借入金等特別控除では、原則として合計所得金額2,000万円以下であることが要件です。床面積40平方メートル以上50平方メートル未満の小規模な住宅などでは、合計所得金額1,000万円以下とされる場合があります。

給与所得者の場合、控除を受ける最初の年分は確定申告が必要です。2年目以降は、必要書類を勤務先に提出することで年末調整で適用を受けることができます。

配当控除

配当控除は、一定の配当所得について受けられる税額控除です。日本国内に本店のある法人から受ける剰余金の配当や利益の配当などで、確定申告において総合課税を選択した配当所得が主な対象です。

配当控除は、法人段階で法人税が課された利益が、株主に配当として分配された際に、さらに個人の所得税が課されることによる二重課税を調整するための制度です。

控除額は、配当所得の金額に一定の控除率を乗じて計算します。たとえば、課税総所得金額等が1,000万円以下の場合、剰余金の配当等に係る配当所得については10%、証券投資信託の収益分配に係る一定の配当所得については5%などの控除率が用いられます。

一方で、外国法人から受ける配当、申告不要制度を選択した配当、申告分離課税を選択した配当などは、配当控除の対象になりません。

上場株式等の配当等については、総合課税、申告分離課税、申告不要制度の選択により、配当控除の有無、損益通算の可否、扶養控除等の判定への影響が変わります。また、確定申告で選択した課税方式は、原則として修正申告や更正の請求で変更できないため、申告前に慎重に検討することが重要です。

外国税額控除

外国税額控除は、外国で生じた所得について外国の所得税に相当する税金を納付した場合に、日本の所得税との二重課税を調整するための制度です。居住者が外国所得税を納付することとなる場合、一定の控除限度額を限度として、その外国所得税額を所得税額から差し引くことができます。

たとえば、海外株式や外国ETFなどから配当を受け取り、外国源泉税が差し引かれている場合には、一定の要件のもとで外国税額控除を検討できます。

ただし、外国で税金が引かれていれば必ず外国税額控除の対象になるわけではありません。NISA口座内の上場株式等の配当等に対して課される外国所得税額など、外国税額控除の対象外となるものもあります。また、租税条約により本来課税できる額を超えて外国で課された税額なども、控除対象外となる場合があります。

外国税額控除には控除限度額があり、控除限度額を超える部分などについては、一定の場合に3年間の繰越計算の対象となります。

外国税額控除を受けるためには、確定申告書等に「外国税額控除に関する明細書」や、外国所得税額を課されたことを証する書類などを添付する必要があります。

寄附金に関する特別控除

一定の寄附金については、所得控除である「寄附金控除」と、税額控除である「寄附金特別控除」のどちらかを選択できる場合があります。

代表的なものとして、認定NPO法人等寄附金特別控除、公益社団法人等寄附金特別控除、政党等寄附金特別控除があります。

認定NPO法人等への一定の寄附については、所得控除としての寄附金控除を受けるか、税額控除を受けるか、いずれか有利な方を選択できます。税額控除額は、原則として「対象となる寄附金額から2,000円を差し引いた金額の40%」です。ただし、対象となる寄附金額は総所得金額等の40%相当額が限度であり、税額控除額は所得税額の25%相当額が限度です。

公益社団法人等への一定の寄附についても、原則として「対象となる寄附金額から2,000円を差し引いた金額の40%」を税額控除額として計算します。ただし、公益社団法人や公益財団法人であればすべて対象になるわけではなく、一定の要件を満たす法人や寄附金に限られます。

政党等寄附金特別控除は、認定NPO法人等や公益社団法人等への寄附とは計算率が異なり、原則として「政党等寄附金の額から2,000円を差し引いた金額の30%」で計算します。

寄附金については、所得控除と税額控除のどちらが有利かは、課税所得の水準や所得税率によって異なります。一般的には、所得税率が低い人ほど税額控除の方が有利になりやすい一方、所得税率が高い人では所得控除の方が有利になる場合もあります。実際には、寄附金額、所得金額、他の控除の有無を含めて比較することが大切です。

税額控除を受けるときの注意点

適用要件を満たす必要がある

税額控除はいずれの制度も、適用できる条件が細かく定められています。

たとえば住宅ローン控除では、住宅の床面積、本人の居住の有無、ローンの返済期間、借入先、合計所得金額、入居時期、住宅の省エネ性能などが関係します。住宅ローン控除の対象となる借入金は、原則として10年以上にわたり分割返済する一定の借入金等である必要があります。

要件を一つでも満たさない場合には、控除を受けられないことがあります。適用を受けようとする年に、自分が要件を満たしているかを事前に確認することが大切です。

申告方法によって適用可否が変わる

税額控除のなかには、申告方法の選択によって適用の可否が変わるものがあります。

配当控除は、確定申告で総合課税を選択した配当所得について受けられる制度です。申告分離課税を選択した場合や、申告不要制度を適用した場合には、配当控除は受けられません。

また、上場株式等の配当等について確定申告で課税方式を選択した場合、その後、修正申告や更正の請求で選択を変更することはできないとされています。

寄附金についても、所得控除と税額控除のどちらを選ぶかによって、税負担への影響が変わります。特に、所得税率が高い人では所得控除が有利になる場合もあるため、単純に税額控除の方が常に有利とは限りません。

必要書類・明細書が必要になる

税額控除を受けるためには、控除の根拠を示す書類や明細書が必要になることがあります。

住宅ローン控除では、「住宅借入金等特別控除額の計算明細書」や「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」などが必要になります。

外国税額控除では、「外国税額控除に関する明細書」や、外国所得税額を課されたことを証する書類などが必要です。

認定NPO法人等寄附金特別控除や公益社団法人等寄附金特別控除では、計算明細書や寄附金の受領を証する書類などを確定申告書に添付する必要があります。

これらの書類は、確定申告の時期になってから集めようとすると間に合わないことがあります。寄附金の領収書、住宅ローンの残高証明書、外国税額に関する書類などは、年間を通じて整理・保管しておくと安心です。

所得税から引ききれない場合の取り扱いは制度により異なる

税額控除の金額が所得税額を超える場合、超過した部分をどう扱うかは制度ごとに異なります。

住宅ローン控除では、所得税から控除しきれない場合、翌年の住民税から一部控除される仕組みがあります。

外国税額控除では、控除限度額を超える部分などについて、一定の場合に3年間の繰越計算が認められます。

一方、配当控除は算出税額を限度とするため、所得税額を超える部分が還付されたり翌年に繰り越されたりする仕組みではありません。

寄附金に関する所得税の税額控除についても、所得税額の25%相当額などの控除限度額があります。所得税で控除しきれなかった金額が、そのまま翌年に繰り越されたり、住宅ローン控除のように住民税へ移ったりするわけではありません。

どの制度を利用する場合も、「控除額はいくらか」だけでなく、「自分の所得税額からどこまで控除できるか」「控除しきれない場合に別の取り扱いがあるか」を確認することが重要です。

まとめ

所得控除と税額控除は「差し引くタイミング」が違う

所得控除は税率をかける前の所得から差し引く制度であり、税額控除は税率をかけた後の所得税額から直接差し引く制度です。この違いを理解することが、控除の仕組みを正確に把握するうえでの基本です。

税額控除は効果が見えやすいが、上限と要件確認が重要

税額控除は、所得税額から控除できる範囲では税負担を直接減らすため、効果を把握しやすい制度です。一方で、控除限度額、適用要件、申告方法、必要書類、控除しきれない場合の取り扱いは制度ごとに異なります。

特に、住宅ローン控除、配当控除、外国税額控除、寄附金に関する特別控除は、それぞれ目的も計算方法も異なります。制度名が同じ「税額控除」でも、一括りに考えないことが大切です。

個別制度ごとに最新情報を確認することが大切

税額控除は、住宅ローン控除・配当控除・外国税額控除・寄附金の税額控除など、目的の異なる複数の制度の集まりです。

特に住宅ローン控除は、入居時期や住宅の省エネ性能、税制改正によって控除期間や借入限度額が変わりやすい制度です。2026年時点でも、令和8年度税制改正により令和8年以降の入居分について延長・拡充が行われており、制度内容が大きく変わります。

税額控除を受ける際は、国税庁や関係省庁の最新情報を確認し、税務署や専門家へも相談することをおすすめします。

参考情報

本記事は、執筆時点で公表されている情報をもとに、税額控除の一般的な仕組みを解説したものです。税制は改正されることがあり、実際の適用可否や控除額は個別の状況によって異なります。確定申告・年末調整・各種控除の適用判断を行う際は、必ず国税庁等の最新情報を確認し、必要に応じて税務署または専門家にご相談ください。